小豆島のミライvol.4 寒霞渓の紅葉が 見られなくなるかもしれない!?
- harayama0
- 11月7日
- 読了時間: 7分
三浦崇寛さん | 寒霞渓ロープウェイ
Takahiro Miura | Kankakei Ropeway

未来には、寒霞渓の紅葉は見られなくなるかもしれない!?瀬戸内随一の渓谷美・寒霞渓。紅葉の名所として知られる一方、常緑樹の繁茂や登山道の暗さなど、景観や歩行環境の課題が積み重なっている。
「守るか、使うか」「誰がやるか」ではなく、
島の宝として寒霞渓の価値をどう高めていくか?
寒霞渓は‶島の宝"。
この美しい渓谷は、島で営み暮らす人や訪れる旅人にとって
自然と共に生きるミライを考えるための‶渓(たに)"でもある
その現場にロープウェイの運営を通じて、向き合ってきた
寒霞渓ロープウェイ(小豆島総合開発株式会社)の三浦崇寛さんに話を訊いた

寒霞渓の紅葉は毎年11月が見ごろだ。
海と岩肌、空と奇石。そこにウリハダカエデ、イロハカエデ、イタヤカエデ、岩シデやイヌシデ、アカシデ群落などの落葉広葉樹が赤や黄色に渓谷を染める。その色を際立たせるのはアカマツやアカガシ、ウラジロガシ、ウバメガシなどの常緑樹や、岩に着生するシダ植物のイワヒバなど。これらが空と海に重なり合い、秋の寒霞渓は「錦の屏風」と称される息をのむほどの景観だ。ロープウェイで山頂まであがり、展望台周辺を巡るだけで、まさに「一歩一景」。
この美しい景色がなくなるかもしれない…って本当ですか?

今回話を聞いた寒霞渓ロープウェイを運
営する小豆島総合開発株式会社、営業シニ
アマネージャーの三浦崇寛さん。高校卒業
後、いったん島を離れるも、観光の仕事がし
たいとの想いで、寒霞渓ロープウェイの運営、
PR、営業の仕事に就き、今年で26年目。お
すすめは、ロープウェイで上った山頂の先の
「四望頂」。手前に大きな岩があり、烏帽子
岩があり、渓は海へとつながる紅葉の絶景ポ
イントだ。
「今でも素晴らしい景観ですが
昔はもっと綺麗だった、と言うんですよ」
「寒霞渓のPR素材を集めるため、過去の文献や写真を調べるんです。島内外のカメラマンも、寒霞渓の美しさに惚れ込んで撮影をしに来ます。今と昔の写真を比べたりも。そうするとやっぱり、昔と比べて今の紅葉は“ぼやけている”ような気がします。地元のカメラマンからは「昔はもっと色づきが良かった」とも。昔の写真は色褪せもあって断定は難しいですが、この季節は歩くたびに紅葉の景色が“ぼんやり”してきている感覚があります」。
紅葉が“ぼやける”理由
寒霞渓の紅葉を評して「ぼやける」と言った三浦さんは、こう話をつづけた。

「コロナ禍期に、環境省の方と話す機会がありまして、景観についての話を伺ったことが
あるんです。寒霞渓は、瀬戸内海の国立公
園を象徴する場所でもあるので、手つかずの
自然やその景観をできる限り残す区域(第1
種特別地域)として保護されています。学術
研究や最小限の施設や景観の維持など、自

然保護上やむを得ない場合以外は、開発や利用は規制されています。景観については、
西日本を中心に備長炭としても有名なウバメガシも多く、長く放置されると、過繁茂状態になり、森に光が十分届かなくなります。昔は、山に入ってこの木を薪にして暮らしの大切な資源としていたわけです。間伐によって光と風を通すことで結果、登山道を歩くと、今は茂った樹々で一部が見えなくなってしまった“表十二景・裏八景”の奇岩、奇石がすべて楽しめたといいます。森林の世代交代を促し、健全な状態を保つ取り組みが鮮やかな紅葉の基盤を作っていたんです。それが暮らしの変化で手入れの営みが薄れ、常緑樹が伸び、見通しが失われてきたのだと思います。土庄町側には森林組合があり、径木を運ぶトラックを見かけることもあります。寒霞渓にも昔、木材運搬用の索道があったといいます。ただ、今は系統だった林業的循環があるかというと、乏しいかもしれません。
それと、もうひとつに、紅葉に色付きを左右する朝晩の寒暖差がなくなってきていることも影響があるかもしれません。標高600mに達する寒霞渓は寒暖差が大きいはずですが、最近は、夜の気温が下がらない影響から、色付きが「ぼんやり」としてしまい、紅葉時期の予測も難しいと感じます」。
寒霞渓を訪れ楽しむ利用者目線での課題はいかがでしょうか?
「今、欧米から日本の美しい自然を求めて、
訪れる人たちも増えている中、
日本だけでなく、世界の方々に小豆島の
自然の美しさを体験してほしいですね。その中でも寒霞渓にある2つの登山道(「表十二景」と「裏八景」)はロープウェイと組み合わせて山頂の眺望はもちろん、道すがら、寒霞渓の様々な表情を体験できます。光が差して風が流れ、木漏れ日の山道を歩くことで、癒しや自然の力を感じるトレッキング文化がある欧米の旅行者には絶好の場所。低山ハイキングとしても寒霞渓は魅力だと思います。また、今年は自転車のヒルクライムレースも開催されました。ロープウェイもある寒霞渓は1年を通じてアクティブな旅行者が世界から集まる場所になれるのではないかと思っています。しかし、2つの登山道がどちらも鬱蒼として暗く、登山者を受け入れる環境がまだまだ追いついていません。景観の維持と合わせて、山道の整備も皆さんと考えていきたいと思っています」。
以前は紅雲亭から見えるはずの「通天窓」という奇岩(天に通じる窓のよう穴が開いた岩)が、木々が茂り、見えなくなり、景観を損ねるとの理由で、役場と財産区の皆さんが協力して間伐をした実績がある。また、島の山道と言えば、お遍路道。常光寺の住職さんが中心になって、道普請をしながら歩く“チョキチョキ遍路”といった地道な活動も。寒霞渓をはじめとした島の自然を「島の宝だ」と語る、
三浦さんと同じ想いの方も多い。

「島の宝」をどう育てていくか?

「定期的に役場の方も予算を付けて台風の後
などに町道や登山道の見回り、枝打ち、展望
台の整備など、軽微なものは実施しています。
しかし、景観そのものを維持するために、
誰がどう、できるのか。山道も、紅葉も現在の状況が“日常の風景”となっているなか、民間単体では、とても難しい。また、国立公園といえども、私有地も含まれ、所有者もそれぞれ違うので、役場だけでも厳しい。「神懸山保勝会」と
いう景観保全を目的とした団体が昔からある
のですが、高齢な方も多く、取り組む活動資
金も少なくハードルが高い。だからこそ、誰が
やるかではなく、「行政も民間も島の人たちも、
みんなで“島の宝”を守り育てる」。島全体で
寒霞渓を“島の宝”として共有し、協力してひ
とつずつ寒霞渓の価値やポテンシャルを高め
ていくことが大事だと思っています」。
あたらめて三浦さんと一緒にロープウェイ
の山頂駅から第一展望台に行った。三浦さん、
寒霞渓のミライはどんな感じですか?

「先人が大切に守り育ててきた“寒霞渓”という島の宝を、今あらためて私たちが受け継ぎ、
再び磨き始めたところです。昨年、日本を訪れた外国人旅行者は3,600万人を超えて過去最高となり、2030年には6,000万人に達すると予測されています。それでも寒霞渓を知らない人は、日本国内はもちろん、世界的にもまだまだ多い。日本にはこうした美しい景色があるのです。






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