観光に消費されるのではなく観光で営みを続ける島へ
- harayama0
- 11月7日
- 読了時間: 6分
― 小豆島、持続可能な観光への挑戦とその未来 ――

岡田恵麻さん
土庄町 商工観光課主事
片岡琴未さん
小豆島町 商工観光課 主任主事
松田美夜日さん
一般社団法人 小豆島観光協会 地域おこし協力隊
小豆島、持続可能な観光への挑戦とその未来 ―

「持続可能な観光地」への取り組みとは、大

げさな目標ではなく、島で暮らしを営む一人とし
て自分たちの未来をつくるために何ができるか
――。その問いから、3人の挑戦は始まりました。
2024年1月に“観光により消費される島では
なく「観光により持続できる島」を目指す”の
ビジョンのもと小豆島観光協会・小豆島町・土
庄町の三者共同で、持続可能な観光の国際
的認証機関「グリーン・デスティネーションズ」
(以下GD)の審査に挑戦し、見事シルバーア
ワードを獲得しました。日本では、小豆島を含
め5地域しか選定されておらず、世界的な「持
続可能な観光地」となりました。
GDは「世界持続可能観光協議会」から認
定を受けた国際認証機関。ブロンズ~プラチ
ナまで4レベルの段階的な表彰制度を設けて
おり、観光地管理・自然と景観・環境と気候・
文化と伝統・社会福祉・ビジネスとコミュニ
ケーションの6分野/84項目に及ぶ評価を通じ
て観光地の持続可能性を点数化します。審査
はいわば“観光地の上場審査”。膨大な書類
作成と庁内、地域の協力が必要でした。この
挑戦の中心に、島の未来を見据える3人の若
き担い手たちがいました。
挑戦の始まりは、2021年。小豆島町で初め
て世界の持続可能な観光地TOP100選の申
請に取り組んだのは小豆島町商工観光課の
片岡琴未さん。
「棚田百選に選ばれている中山千枚田は小豆
島を代表する景勝地。でも少子高齢化の影響
で離農が広まり地域の元気が失われかけてい
ましたが、地域の人々が「中山棚田協議会」
を発足。景観保全の取り組みを行うとともに、
2010年に映画「八日目の蟬」のロケをきっかけ
に伝統行事の虫送りが復活。観光の力で風
景・文化を継承し、地域が再生していくという
物語です。一方、観光客の想定外の振舞いに
は“地域と観光客の間の優しい距離感”の配
慮を促すなど、小豆島ならではの活動で申請し
ました」。

こうして小豆島の再生の物語が、世界に向
けて初めて発信されることになります。翌2022
年には、土庄町が観光庁の「日本版持続可能
な観光ガイドラインモデル地区」に採択。中心
となったのは、大学卒業後に新卒で土庄町役
場に就職した小豆島出身の商工観光課、岡田
恵麻さん。
「小豆島霊場第54番札所の宝生院に“応
神天皇の御手植えの木”と伝えられるシンパ
ク(真柏・ヒノキ科の常緑針葉樹)があります。
遠くから見ると、多くの木が折り重なって森のよ
うに見えるのですが、実は、樹齢1600年の1
本の木。多くの人が、見学参拝に訪れ、根が踏
まれて腐食の危機があったこの巨木の保護を
契機に島の文化に根ざした観光のあり方に向

き合うようになりました」
2023年4月、小豆島町と土庄町は“島はひと
つ”という方針のもと、島の観光窓口を「小豆
島観光協会」に一本化。地域おこし協力隊とし
て着任し、観光協会スタッフとなった松田美夜
日さんも加わります。

「「持続可能な観光地」に取り組んでいる小
豆島を知り、観光と環境の分野に惹かれて地
域おこし協力隊としてスタッフになりました。そ
れまで外国人留学生の通う専門学校で日本語
を教えていました」。
こうしてチームとなった3人は、世界で初めて
“2つの自治体による共同申請”というスタイ
ルで「グリーン・デスティネーションズ・アワード
(表彰制度)」に挑戦します。審査項目は多岐
にわたる項目の総合評価。3人だけでは到底
カバーできないため、庁内の他部署や事業者
さんや地域の皆さんの協力が不可欠。
「町長をはじめ、関係する皆さんに丁寧に説明
し、改めて賛同と協力をお願いしました。単独
で始めた時と比べると、2人がいてくれて本当
に心強かった!審査は、審査員が来島されて、
丸々2日間のモニタリング。「銚子渓おさるの
国」にも審査員をアテンド。国際的な基準でど
のように解釈されるのか、初めてだったのでド
キドキでした(笑)。審査の最終結果は期待

を超えてシルバー賞!ほっとしました」(小豆島
町:片岡さん)。
「2つの町での共同申請のため、2町の比較で
優劣の指摘されると苦しい場面もありました。
今回のシルバーアワード獲得は、島の皆さん
や町職員の皆さんに私たちの取り組みに対す
る姿勢を広く周知することができました」(土
庄町:岡田さん)。
この結果を、具体的な取り組みへの契機に
したい、という松田さん。
「事業者さんからは“アワード獲得でお客さ
んは増えるのか?”と聞かれます。今後は具体
的な取り組みを通じて、事業者さんや島の皆さ
んに様々な視点と方向からその価値をお返し
できたらと思っています。私たちはこの取り組
みが“小豆島の未来のための意志”であるこ
とを具体的な行動で示していきたい。普通だと
思っていた島の暮らしの中に気が付かなった
魅力があります。「虫送り」火手販売の例にも
あるように、持続可能な観光への事例を増や
していきたい。また、国際認証には、ホテルや
旅行会社向けもあるので、民間事業者さんが
無理なく取り組めるようサポートしていきたいと
も思っています」(観光協会:松田さん)。
「Sense of Place」――
その土地の記憶とにおいを、未来へ
最後に片岡さんは静かにこう語ってくれました。
「私もこの島に生まれ育った町民として10年後、
20年後も、自分が育ってきた島のままであって
ほしいとずっと思っているんです。私が育って
きたこの「普通」をずっと続けたいなって。私
が結婚して、子どもが生まれ、その子が大人に
なった頃に、今と変わらない文化とか景色が
あって、友達も先輩もいっぱいいて。こういう状
況が続くことが、持続可能な観光に取り組む
ゴールだと思います。私たちや家族や子どもや
コミュニティがどう幸せで豊かに過ごせるかっ
ていうのが、本来観光がやるべきことだと思う
んです。島で暮らす人間の一人として、ずっと楽
しく豊かに、このきれいな島で生きていくため
にやれることは何なのかを忘れずに“持続可能
な観光”に関わっていきたいと思っています」。
GDの創設者アルバート・サルマンさんは、
「持続可能な観光」について、こんなふうに
言っています。
「風景や文化が消え、どこにでもあるような
リゾートに置き換わるなら、その土地の記憶
も失われてしまう。最も大切なのは「Sense of
Place」――これまで以上に、世界中で失われ
つつある「その地域や土地が持つ、記憶やに
おいを感じる感覚」が昨今の「観光の持続可
能性」において最も重要な要素だと考えてい
ます」(※)。
大切なのは、島に暮らす人が営みから未来
を考えつくる“持続可能な観光”。小豆島の3
人の挑戦は、まさにその“原点”。この美しい島
で、暮らしを営み続けること。それこそが観光
の未来を支える持続可能性なのです。





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