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成島 出 監督インタビュー:小豆島の皆さんは地域の共有財産になる“映画の威力”を『二十四の瞳』以来、本当よく知っているんです」(「小豆島倶楽部」2024夏号より)

harayama0

更新日:2024年12月8日


小豆島には、二つの誇るべき映画がある。 木下惠介監督の『二十四の瞳』。 もう一本は角田光代の同名小説を成島出監督の元で映画化された『八日目の蝉』だ。 生まれたばかりの子どもを誘拐し、母と偽り過ごしていた女の誘拐事件を、誘拐された子

の視点を中心に、そこに渦巻く人間模様を紡ぎ出していく、一度見たら忘れられない作品。事件経過の時間軸を行きつ戻りつしながら、事件の背景にある“物語”が浮かびあ

がる成島監督の圧巻の演出。胸が詰まるほど切なく痛い登場人物の心情を癒し覆う小

豆島の風景が、さらに観客を物語へ引き込む。それは映画『二十四の瞳』における小豆

島の悠久で穏やかな自然が舞台装置となり、その真逆のメッセージが観る者の心に突き

刺さるのと同じように。映画『八日目の蝉』の成島監督に「小豆島のミライ」を伺った。

――小豆島で『八日目の蝉』を撮るきっかけは? 「角田さんの小説はもともと好きだったので、新作ということで、本屋さんで買って読んだんです。直感的に“ 映画にしたい”と思い、日活と松竹のチームに相談したのが始まりでした。映画化の可能性が出てきた時点で、原作と同じく岡山から小豆島に入り、見て回りました」。

――小豆島の印象はいかがでしたか?「原作から虫送りとか、寒霞渓や農村歌舞伎の舞台などのイメージは持っていましたが、実際に行くと、一言で言えないぐらい、小豆島は素晴らしかったんです。まさに“島に呼ばれた”感じ。というのも、一人で小豆島をまわっていたその時に、そうめん屋さんへお昼を食べに入ったんです。すると、地元の人が撮ったという写真集が置いてあって。その中に「中山の虫送り」の写真があったんです。見た瞬間に惚れ込んじゃって。中山の千枚田を炎の列がずっと下っていく印象的な写真でした。そこから構想が始まっていきました。撮影当初は中山の千枚田は整備されておらず、撮影時にはみんなで草刈り(笑)。今は本当に綺麗になってます」。



「中山の虫送り」とは、夏生(夏至から11日目)の頃に、火手(ほて)と呼ばれる松明を田にかざしながらあぜ道を歩く、300年前から伝わる島の伝統行事だ。稲ムシと呼ばれる害虫を退治しながら練り歩き、豊作を願う。連なる光の列が棚田を幻想的な風景に変える。映画でもこの行事が登場人物の運命を変えることになる。当時は地域の人口減少も影響し、肥土山地区でしか、執り行われていなかった。

「取材をすると、「中山の虫送り」はもう10年近く前からやっていないとのでした。映画化が決まりスタッフで中山地区の皆さんに再現の相談をしに行くと、開口一番「再現なんてとんでもない!」とあっけなく断られてしまって。地元としてもやめたくてやめたわけではないようでした。火を扱うものですから、消防の問題もあり、事前の申請から現場の処理まで、もろもろ自分たちでは人手が足りない・・・運営が大変なので勘弁してほしいというわけでした。でも僕が“どうしても撮りたい、なんとか説得してくれ”とスタッフに話すものだから、チームの面々が地区の皆さんに一升瓶を抱えて日参し、お酒を毎晩飲みながら頑張ってもらったんです。最後はしょうがないな、って最終的に了承してもらいました(笑)。

 再現するにあたって、行事の流れに従ってやろう、と段取りを地区の皆さんに訊くと、

中山農村歌舞伎の会長さんが「とーもせ、灯せ」と、みんなで掛け声をかけて、火手を

持ってみんなで棚田を練り下った、というんです。“それ、いいじゃないですか!それも復活させましょう!”ということになり、火手に着火する始発点から地区の人たちとスタッフもみんなで「とーもせ、灯せ!」って掛け声をかけながら撮影をしました」。


 この「中山の虫送り」は本作品の撮影で再現されたことを契機に、地元自治会有志などが2011年に復活させ、今や島の風物詩として定着。この独特な掛け声は、虫送りが行われる半夏生の夜に小豆島霊場4 4番札所・湯船山から春日神社まで、毎年、響き渡っている。

「地区のみなさんと、実際にやってみたら、掛け声も含めて、すごく盛り上がって。映像は思った通り、本当に綺麗でした。おかげさまで映画が賞を頂き話題になったこともあり、せっかくだから復活させようと、地元の方から声を上げてくださったんです。今こうして定着しているのは、本当に嬉しい。撮影中は虫送りの件も含めて、地元の方々とお酒を酌み交わしながら腹を割って話す機会も多く、本当に日々助けてもらいました。だからこそ、日本アカデミー賞をはじめ、授賞式の壇上で、いつも「小豆島の皆さん、元気ですかぁ!」ってマイクを使って語り掛けていたのは、キャストもスタッフも島の皆さんへの想いが全員にあったからだと思います」。

 映画の撮影ロケ地を訪れ、その世界観に没入する「聖地巡礼」や「シネマツーリズム」はよく知られている。映画公開後の集客を目指し、自治体出資のフィルムコミッションがロケ地の誘致活動を展開する例は数知れず。しかし、映画側は観光映画として撮っているわけではない。資本の論理で誘致されたからといって、作品が持つメッセージや世界観を支える演出素材にならなければ、そこでの撮影は当然行わない。CGが主流の今、制作者側は作品にとって“ここでなくてはならない場所”を真摯に求めるからだ。受け入れる側には作品への深い理解と、公開後の作品を財産として地域に遺し、作品の魅力を自ら発信し続けていく志がなければ、この施策は一過性の消費で終わる。形あるものは忘れ去られる宿命がある以上、作品を心底愛し、長く伝え続ける人とその意義の継承も必要に。小豆島はそれを『二十四の瞳』で70年以上実践している日本で唯一の地域といっても過言ではない。成島監督は小豆島の皆さんが協力してくれた理由をこう話す。

「やはり、小豆島に映画『二十四の瞳』という映画があるということに尽きます。島の皆さんは映画『二十四の瞳』から始まった“1本の映画の威力”を本当によくご存知なわけです。だから『二十四の瞳映画村』が寒霞渓に次ぐ観光名所になっているのも、その結果です。僕らが口説き落とせたのも、最終的には映画『二十四の瞳』がどれだけみんなの共有財産になったかということを小豆島の皆さんがよくご存知であることがすごく大きかったと思います。だからこそ映画撮影ということに対しての協力体制、向き合い、態度が他のエリアとちょっと違うんです。もちろん島の人が持つ独特の優しさや人情深さの掛け算は当然あります。撮影前に、映画村へご挨拶に永作博美さんと渡邉このみちゃんと行き、お話をさせてもらう機会がありました。『二十四の瞳』のロケ地も行きましたが、当時の風景はほとんど残っていないんです。でも、島の皆さんの力で、こんな風に島に財産として遺っている映画一本の凄さを改めて感じました」。


2 011年の公開から13年。映画『八日目の蝉』の聖地巡礼をきっかけに、『二十四の瞳』を知る若い世代も多いはず。また逆も然り。この現象は、成島監督が言う“映画の威力”であり、時間をかけて丁寧に映画を島の共有の財産・文化として遺そうとする意志とその行動ゆえ。 最後に、成島監督の小豆島20年後のイメージを訊いてみた。

「ロケハンをしていて「小豆島八十八ヶ所霊場」は素晴らしかったんです。特に夏至観音の第1番洞雲山とか第4 2 番西之瀧は圧倒的。いわゆる“キラキラした集客観光地”では一切ないんですけど、同行二人で遍路する人たちの風景が相まって、小豆島に宿る神々の独特な世界なんです。行ってみると本当にホッとして、心洗われます。20年後には新しい観光名所も素敵なホテルも増えるかもしれません。いろんなものが変わっていくんでしょうが、小豆島のこの“神々の世界”だけは2 0 年後も変わらずにいてほしいなっていうのが一番の願いです。やっぱり古いものはいいんですね。今よりももっと複雑な社会に将来なっていくことを考えると、心を洗濯して癒して再生回復する旅は、需要が高まるはずです。小豆島の神々に逢いに行くようになるんじゃないかな。都会に疲れた人たちにとって、こぢんまりとした小豆島の神々との触れ合いっていうのは、『八日目の蝉』の永作博美さんが演じた誘拐犯“野々宮 希和子”がまさにそうだったように、すごくホッとすると思うんですよ。映画のセリフの中でも、「この島には“かみさん”がいっぱいおるんや」と、希和子は言うんです。崇拝対象の“ゴッド”ではなく、神聖ながら隣にいつも居て話を聞いて一緒に泣いてくれるような穏やかな“かみさん”。僕も八十八ヶ所の“かみさん”の隣にちょこんとおじゃまさせてもらっている感じで、撮影していました(笑)」。



 映画「八日目の蝉」では一時の安寧の地“小豆島”で、誘拐した子と逃避行をする希和子の暮らしが描かれる。成島監督が話すように、小豆島は独特の自然を背景に古くから培われてきた“小豆島遍路”があり、お遍路さんは札所だけでなく山、海、木、石、空…など、すべての“かみさん”に感謝し、そのおかげを願う「祈りの島」。“かみさん”は、監督が描いた希和子と同じように、島に来る人たちにいつも穏やかに包み寄り添っている。多くの人が、小豆島の自然が素晴らしいと感じる理由は、ここにある。

「こんな場所だからこそ、島に呼ばれて、この映画を撮ることができた、という想いはあります。映画の後も、映画村の村長さんと親友になれたし、そうめん屋さんの親父さんとも仲良くなって釣りに行ったり。それ以来、ちょくちょく島に出かけて、ずっと仲良くさせてもらってます(笑)」。

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